今回はこの本を読んだ。

book

1ヶ月ぐらい前に読み終わり、ブログを書こうとグダグダしてたらここまで来てしまった。

概要

「実装する」なんていう単語が入っているもんだから、割と技術寄りの話なのかと思ったんですが、実際に読んでみると、技術の内容の話なんてものはほとんど出てこない。
本書のメインは技術のパワーがすごいのは分かった上で、それをどう違和感なく社会に溶け込ませるかという話である。

それも、技術サイドの改変についてではなく、社会の受け入れ体制をどう作っていくか、ないしはその受け入れ体制の醸成にIT畑の人間はどう関わっていけばいいのかという内容である。

Netflixの「No rules」のような社内やプロダクトについての言及とは真逆と言えるだろう。

話の流れとしては、まず、第二次産業革命頃に主なエネルギー源が蒸気機関から電気に変わった当時の工場の変化と、それに伴う社会規範の変化ついて述べられる。

この電気の導入を「技術の社会実装の一例」とした上で、現代の先進国ではどの要素も満ち足りているから、ガラリと生活を変えるような社会実装が世の中から求められていないという課題が提起される。

そんな、社会実装が難しくなった現代で、それを推進していくに必要な要素は「インパクト」「リスク」「ガバナンス」「センスメイキング」の4要素であるという流れで、後半の4章分はこの4要素を1つずつ解説していく流れである。

また、本書の最後には「社会実装のツールセット」という形で、上記4要素を見つけていくにあたってのフレームワークが掲載されている。

感想

私自身一人の社会人でありながら、CivicTechに関わっている身でもあるので、その両面で本書を読みすすめることができた。

非営利団体の手法を逆輸入

まずCivicTechに関わる人間として、非営利の団体について言及されているところがすごく嬉しく感じた。

4要素の1つ目の「インパクト」は本書の中では社会に対する理想や、その理想を叶えた先の影響という意味で使われているが、まさしくその「インパクトの設定」が上手いのがNPOなどの非営利団体である。
営利目的ではない団体は、強烈なインパクトを周囲に訴えかけることで、協力者を増やし、組織を継続・拡大している。

実際に私自身も団体の理念に惹かれて、協力しているNPO団体もあるし、そこで一緒に協力してくれるメンバーも私と同じ様に理念に強く共感したのだろう。

しかし、そんな非営利団体の活動の多くは世の中に知られることはない。理由の1つとしては、どうしても営利団体と比べると、人や資金などのリソースが少なく、活動が小さくなりがちというのもあるのだろう。

そんな非営利団体が本書で「逆輸入」される存在として記載されていることに大きな喜びを感じた。
営利団体も社会実装を進める上では、やはり投資家に好かれるだけではなく、真摯に社会課題に向き合い、強烈なインパクトを周囲に語れる必要があるのだろう。

是非本書から、非営利団体に少しでも注目が集まれば嬉しいなと思う。

ガバナンスの複雑さ

普段、普通に生活をしていると、法制度について強く意識することは無いが、社会実装を叶えるにあたっては4要素のうちの3つ目「ガバナンス」が大きく関わってくるということを知れたのは大きな気付きであった。

本書を読むまでは「ガバナンスと言えど、ルールの集まりなわけだから、校則や会社規則とあんまり変わらなくないか?」と思っていた。

ただ、実際に読み勧めてみると、上記の考えは大きく変わった。

実際、「ガバナンスと言えど、ルールの集まりなわけだから」の部分は間違ってはいないと思う。
ただ、そのルールに関わってくるステークホルダーが多すぎるのである。

ある1つの団体内のルールであれば、「その団体の売上を上げる」「団体のミッションを叶える」などと言った、分かりやすい共通の目標があるし、大体の団体には長がいるので、内部で意見が割れた場合には、長に決めてもらえばそれでよい。

ただ、社会全体を取り巻くルールとなるとそうはいかない。
企業の存続を分けるようなルールはよく存在するし、社会全体が1つの方向に向かえるような明確な目標も存在しないので、仮にルールの変更をしようと思ったときには、その判断基準の制定が難しい。
また、国や県にも名目上はトップとなる人はいるものの、国や地域のガバナンスはもちろん1人で判断できるような量ではなくなっているし、なんならトップ1人よりも、複数の団体が集まった方針のほうが強かったりする。

確かにこのガバナンスのアップデートは一筋縄ではいかないなととても納得できた。

是非この感覚を味わいたい人は本書を読んでみてほしい。

普段の活動でも適応できるのでは?

しかし、「ガバナンス」以外の3要素は、団体内部の問題の拡大解釈のように思えた。

「インパクト」の設定方法を磨くことで、輝かしい目標に基づいた問題提起ができるようになるし、「リスク」を正しく分類し、正しく恐れることは、活動の正しい活性化に繋がるだろう。

「センスメイキング」は、本書では「ステークホルダーが『理にかなっている』『意味を成す』『分かった』と感じることによって、人々が動き出すプロセス」と記載されている。
端的に言えば「腹落ち感」のことでは無いだろうか。

新しいアクションを起こすにあたって、周囲を巻き込むための説明の「腹落ち感」は他人に動いてもらうための大事なファクターである。

そういう意味で、本書の「社会実装」を「新しい提案」、「社会課題」を「団体の課題」などといった形で読み替えてみると、普段の活動で直接活かせそうなナレッジはかなり収集できる。

特に、最後の「社会実装のツールセット」は、フレームワークがそのまま載っているため、すごく使いやすい内容になっている。

そういった意味で、社会人の側面でも興味を持って読める本書であった。