積んであったこいつをようやく読み終えました…

確かきっかけとしては、私が趣味でジョインしているCode for Japanのイベントの講師として、及川さんがいらっしゃるということで、なにか1冊事前情報として読んだほうがいいんじゃないかと思って買ったのがこの本だったような気がします。
結果として全部読むこと無くイベント当日を迎え、イベント終わったあとは読むモチベーションが消失し、再び積まれていたこいつを引っ張り出して読んだわけです。

得たかったもの

この本を読む前に、読書に関する誰かのYoutubeの動画をボーッと見ていて、「本を読む前に、目次を眺めて、その本から得たいものを決めておくと良い」ってことを言っていました。

読書のコツとしては割とメジャーなものかとは思いますが、そういえば最近は忘れていたなと思い、今回は自分でこの本から得たいものを決めてから読み始めました。

それが以下の通り

  • そもそも「ソフトウェアファースト」とはどういう意味か。「健康第一」的な物事の重要度の順位付けの話なのか。
  • 日本のソフトウェア産業の弱さの原因を何と捉えているのか。
  • ソフトウェア開発会社のあるべき社内体制。「強い開発組織」とは何か。
  • エンジニア採用について。エンジニアが美味しいと思う求人。
  • プログラマ以外のキャリアパスについて。(他のキャリアパスがあるのは分かっているが、適正やそのキャリアパスに向けての経路が分かっていない。)

ブックログの付け方も色々迷走しておりますが、今回は日本のソフトウェア産業の課題感について、本書から得た気づきや学びをまとめたいと思います。
他のカテゴリの気づきもやる気が出たら別の記事にして出そうと思います。

「ソフトウェアファースト」とは何か

本書ではソフトウェアファーストというものを以下のように説明しています。

本書のタイトル「ソフトウェア・ファースト」とは、IT(とそれを構成するソフトウェア)活用を核として事業やプロダクト開発を進めていく考え方です。 及川 卓也. ソフトウェア・ファースト (Kindle の位置No.486-488). 日経BP. Kindle 版

ソフトウェア業界で働く人からすれば、「そりゃそうやろ」と思う考えかもしれません。
しかし、本書を一通り読んでみると、ソフトウェア以外の業界はおろか、ソフトウェアを専門に作っている会社でさえも、この考え方ができているのは少ないのではないかと思うのではないでしょうか。

読み終わったあとに是非思い返したいキーワードです。

日本のソフトウェア開発の課題感

なぜあれほどハードウェアでブイブイ言わせていた日本企業ですが、なぜITというフィールドでは、以前の様な世界を代表するような技術が発揮できないのか。

スポーツなどは体格の差が歴然なので、アジア圏が弱いのは分かりますが、ソフトウェアはなぜなのか、すごく疑問に思っていたところではありました。

よく巷では「大学での教育体制が~」などと言いますが、教育の発展はITの発展からしたら後発的なものでは無いのでしょうか?
「米国はソフトウェアが今後発達することを知っていたから、以前から教育機関を発達させていた」なんてことは考えづらいなと思っています。

では、それ以外に何か根本的な原因があったのか。本書第2章、「IT・ネットの”20年戦争”に負けた日本の課題と光明」にて、上記についての答えが一部載っていたので、かいつまんで紹介します。

日本製SIer

第2章では、下記のように書いてあります。

効率化や省力化だけがITの可能性ではありません。ITには、既存産業のルールを壊し、新たなビジネスに作り替えるだけのパワーがあります。これにいち早く気付いたのが米国の企業群でした。 及川 卓也. ソフトウェア・ファースト (Kindle の位置No.671-673). 日経BP. Kindle 版

まあ正直昔の事象だけを見ても、あまり腹落ち感はありません。

しかし、これが顕著に出ているのが、日本のSIer業界です。

下記の記事にもあるように、アメリカではソフトウェアの殆どは内製だそう。


しかし、日本のIT企業の7割は受託開発だと呼ばれているように、日本のIT技術の殆どはSIerに支えられています。

この現状が生まれてしまった背景には、日本の「ソフトウェアを事業の核と捉えず、道具の1つとして見ている」という現状が顕著に反映されてしまっているらしく、ソフトウェアを会社の外で作ってもらうような風習が生まれてしまったそうです。

主に日本のソフトウェア業界しか知らない私にとっては、受託開発が多いのは当たり前のように思っていましたが、こうして海外と比較してみると、その比率の違いにすごく驚かされました。

エンジニアのキャリアプランの1つとして「1回でいいから海外のIT企業で働いてみろ」という話がありますが、これには技術力や外国語力の向上のみならず、日本の文化とは全く違う海外のソフトウェア文化に触れることができるというのも、大きなメリットなのかもしれません。

ハードウェア製造とSaaS

トヨタやパナソニックなど、日本はハードウェアの技術力の高さを世界に評価されてきたという過去があります。

しかし、ソフトウェア産業で日本が評価されないのはなぜなのか。
本書では以下のように記述されています。

SaaSによるサブスクリプションサービスなど、新しいビジネスモデルに基づくソフトウェア開発をする時は特に、製造業的なモノづくりのプロセスに捉われ過ぎるとどこかで機能不全に陥ってしまいます。 及川 卓也. ソフトウェア・ファースト (Kindle の位置No.858-860). 日経BP. Kindle 版

簡単に説明するとウォーターフォールにはハードウェア製造特有の「フェーズの後戻りを嫌う」という特性が色濃く反映されており、ソフトウェアの開発に関しては、その思想や開発手法があっていないのではなかろうかという主張です。

ただ、一概にソフトウェアといっても、パッケージのソフトウェアに関しては、ハードウェア的に「リリース時に間違いの無い品質まで引き上げなければならない」という考えがあり、パッケージ開発においてはウォーターフォールが有効に作用したのではなかろうかと予想します。(本書には書いてないけど)

「ハードウェアでうまくいったんだから、同じものづくりであるソフトウェアでも同じ方法が適応できるだろう」と考え、ウォーターフォール開発が広く一般的な開発手法として伝わり、更には一部のソフトウェア開発では有効に働いてしまったからこそ、ウォーターフォールの有用性を信じて疑わなくなってしまったのか。
ここはウォーターフォール開発の起源など、様々調べてみたい箇所ではありますが、日本のソフトウェアが育たない理由としてはすごく納得感があり、大きな要因の1つとして考えても問題なさそうです。

実際の失敗事例などは本書に詳しく書いてあるので、気になる方は是非購入して、読んでみてください。

ソフトウェアと狩野モデル

製品の品質の1つの指標として、「狩野モデル」というものがあります。

日本がこれまで評価されてきた要因として、上記の狩野モデルの「当たり前品質」「一元品質」「無関心品質」の高さが上げられると思います。

「日本の製品は丁寧だから」と言われる背景には、「日本の製品にはハズレが少ない」といった考えが含まれているように感じます。

そういった日本の品質と狩野モデルについて、本書では以下のように言及されています。

この中で、イノベーティブなプロダクト開発を考える時に重視すべきは魅力品質であり、一元的品質です。当たり前品質では、いくら精度を高めても顧客満足度を引き出すことはできません。 及川 卓也. ソフトウェア・ファースト (Kindle の位置No.1039-1041). 日経BP. Kindle 版

SaaSサービスにおいて、重要なのは購入時の安定感ではなく、長期的に運用していく中での顧客満足度です。

「当たり前品質」「一元品質」はその名の通り、使っていく中で当たり前になっていき、顧客の満足度に頭打ちが来ます。

SaaSサービスはリリース後の変更が容易だからこそ、絶えず変わる顧客ニーズに応え、「魅力品質」を上げることを心がけるのが、強いSaaSサービスの秘訣であり、日本の産業に今までなかった点かと思いました。

まとめ

日本の今までの売れていた産業が、現代のソフトウェアの足かせになっているというのはすごく納得感のある意見だなと思いました。

本書では、中国のソフトウェアが発達している理由なども言及しており、他の国の発展の秘訣も調べてみたいなと思います。

あと、ブログ書いていて思いましたが、似通った内容の本を複数読んでから、その内容をまとめるのでも面白いのかなと。
ブックログに関してもいろんなやり方を試してみたいなと思います。